2019年12月31日火曜日

独裁者ゲームの行動をちょっとした操作で劇的に変えて見せましょう

今年中に仕上がってるはずの原稿達が綺麗に真っ白でそのまんま2020年に持ち越しとなること確定。ひやー。

収奪型の社会的ジレンマ実験て案外ないじゃん、俺たちオリジナル!と思ってたら見事ありました。

List, J. A. (2007). On the Interpretation of Giving in Dictator Games. Journal of Political Economy, 115(3), 482–493.

ホモ・エコノミクスなんて幻想だって研究は山ほど山盛りたくさんあるでよ。人は合理的でない利他行動をとるもんだ。そうした行動の研究モデルのひとつとして独裁者ゲーム(DG)は、まあいっぱいあるよね。うむ。

けど、普通の独裁者ゲームではポジティブな分配だけが要求されてるので分配が個人の選好なのか状況による影響なのかを分別できないじゃんか。たとえば独裁者ゲームで負の分配(相手から奪う)を導入すると結果が決定的に変わるというのも知られているよ。

ということで奪うことも可能なDGのいけてる先行研究Bardsley (2005)をベースに実験をデザインする。主な変更点は、資源の獲得にタスク実施の効果を導入することと、奪える額も操作したことだ。

コントロール群:普通のDG。両者にまずは5$を与える。そんで追加の5$を分配者に与えて分配額を聞く。
Take1$群:両者にまずは5$を与える。そんで追加の5$を分配者に与えて分配額を聞く。なお分配者は-1$~5$を選べる。つまり被分配者から奪うことも可能。
Take5$群:両者にまずは5$を与える。そんで追加の5$を分配者に与えて分配額を聞く。なお分配者は-5$~5$を選べる。つまり被分配者から奪うことも可能。
Earning群:Take5$群と同じセッティングなのだけど、両者元手を得るために30分の作業が課されてその報酬として元手が渡される。

結果いくどー。

コントロール群では0と2.5(半額)にピークがある。最頻値は0、次いで2.5。しかーし、Take1$にするとポジティブな割合はガクッと減って0の割合が増加する。次いで多いのが1$奪うやつら。さらにTake5$にすると、ほとんど誰もポジティブな分配をせずに大半が奪うことにしてる。最頻値は5$奪う。次いでニュートラル。しかーし、元手をタスクによって得るEarning群では、なんと、ほとんどの人がニュートラル(奪いもしなければ与えもしない)になる。

たくさんある実験結果はDGで人々が他者に寄付する社会的選好を持ってるといっているけど、実験室の外ではそんなにみな利他的には振舞ってないでしょう。参加者がとれる行動のセットを操作することで、お見せした通り結果がすごく変化するでしょ。結局"moral cost function"は簡単な操作で大きく変化する。つまりこれまで独裁者ゲームで得てきた知見は修正しなきゃダメだよ。さらに元手資金を稼ぐ方法と交差させると、"moral cost"がグンと増えることもわかった。

者ども、実験の際にはこうした点の考慮を努々忘れる出ないぞ。

なるほどねー、なかなか面白かったしほぼヒストグラム一発で見せる技は今やってる別の論文に使えそうだ。まあイントロもディスカッションもまだ出来てないんだけど。

2019年12月27日金曜日

年の瀬Pay it forward実験フェア パート3

去年の年末も締切近づくのになんもしてないしなんも思いつかないで尻がチリチリしてたようだ。そして今年もだ。やれやれ。

Gray, K., Ward, A. F., & Norton, M. I. (2014). Paying it forward: Generalized reciprocity and the limits of generosity. Journal of Experimental Psychology: General, 143(1), 247–254.

Pay it forwardは古くから偉い人が色んなところで素敵だっていってる。そうベンジャミン・フランクリンだってラルフ ウォルド エマーソン(だれ?)だって。そして心理学者だって(Bartlett & DeSteno,2006)、進化生物学者だって(Bshary & Grutter,2006)、ゲーム理論家だって(Nowak & Sigmund,2005)。そして圧倒的にポジティブな枠組みで研究されている。ていうかそもそも簡単に裏切りに侵入されちゃう概念だから遺伝的に近いとか閉じたグループとかが想定されてる。ということでまずは匿名状況でもpay it forwardがあるのかを検証するぞ。そんでさらには、どんな行動がpay it forwardされるのか(つまりは、良い連鎖・悪い連鎖どっちもあるのか)を検証する。具体的には独裁者ゲームをベースにした実験を5個おこないますよ。分配される資源が「不公平」「公平」「寛大」の3タイプ用意する。

さあ実験祭りを堪能するがよい。

実験1:お金のPay it forward

街中でリクルートした100人(まじっすか、がんばりますな)が対象。コントロール群は、独裁者ゲームの分配者側になるだけ。トリートメントは3タイプ。それぞれ最初にDGのレシーバーになって6$の資源を匿名分配者から受け取る。額は、0,3,6。そんで次に分配者になって匿名の次の人に分配する。さあいくら分配するのよ?

結果、きれいですよ。不公平 < コントロール群 < 平等 = 寛大

不公平分配されたらそれが伝播しますね。

実験2:手持ち資金をコントロール

ほとんど実験1と一緒なんだけど、最初にくじを引いてラッキーなら6$プレゼント、アンラッキーならプレゼントなし。その後、実験1と同様にまずはレシーバーになって不公平(=0$)か寛大(=6$)な分配を受ける。そして最後に次の人へ分配額を決定。

ラッキー・アンラッキーコンディションの主効果なし、分配される額の主効果あり、交互作用なし。

実験3:労働のPay it forward

今度はAMTを使います。経済ゲームじゃなくてタスクを課す。タスクを2種類用意します。GoodなタスクとBadなタスクだ。前者は面白動画の評価、後者は外国語の文章を読んで母音をチェックする。参加者は、Good2つ+Bad2つの計4タスクのうち2つをこなして次の人に残りを渡すことになる。さらに前の参加者から渡されたタスクもやらなくてはいけない。コントロールするのは、前の参加者から渡されるタスクの割合。4つのうち4つともBadという不公平、2つのGood・2つのBadという公平、4つともGoodという寛大の3つ。

さあ人々よ働きたまえ。

不公平分配のときだけ有意にGoodタスクを残すことが少ない。それ以外は差がない。

実験4a:

今度は感情測定をやる。方法は実験3と同様のタスク分割だ。不公平、公平、寛大のタスク分配を受けた後に、ポジティブ・ネガティブ・怒りの感情測定を行う。感情はちゃんと操作ごとに順当なほうに動いている。続いてGoodタスクを残す数を感情で説明する回帰分析をやる。ネガティブ感情だけが予測する、ポジと怒りは効果なし。ただし寛大な分配のときにはポジティブだけが有意。

実験4b:感情を事後操作するのは有効か

ネガティブ感情がpay it forwardに効くのであれば、この感情をフィルターすることで負のpay it forwardを減らせるのではなかろうか。ということで、タスク(不公平・寛大の2タイプ)を受け取った後に感情操作の文章(ニュートラル・ポジティブの2タイプ)を読んでから次の人にタスク分配をする。受け取るタスクの種類の主効果は有意、フィルターの主効果はなし、交互作用あり。不公平タスクを受け取った群で、フィルターによってGoodタスクを残す量が「ポジティブ操作>ニュートラル」となる。

4a,4bから考えるにネガティブ感情によって罰送り的なものが生じており、しかし感情の改善操作によって罰送りを軽減できる。


ということでアップストリーム互恵の実験は独裁者ゲームでやられてることが多いようだ。自分たちの実験設定は少し凝りすぎてる気がしてきたなあ。

2019年12月22日日曜日

アップストリーム型3人独裁者ゲームやっちゃうよ

見事なまでにやる気がでない。あっぱれだ。日々着実に論文を進められる人が羨ましい。いるんだ身近にそういう出木杉君みたいなやつが(妬み)。爪の垢、は飲みたくないので代わりにやってくれまいか。

そして実験やってから関連論文を探すという泥縄大作戦。

Bahr, G., & Requate, T. (2014). Reciprocity and giving in a consecutive three-person dictator game with social interaction. German Economic Review, 15(3), 374–392.

協力の進化で直接互恵は良くある代表例だけどお返しできないことも良くあるはずだ。例えば誰かの献血のおかげで助かったとしてもその人は血を返すわけにはいかない。そういう場合、また別の誰かのために献血したりするよね。それを名付けて"pure indirect recirocity"という(がーん、ワーディングupstreamに統一されてないんだ)。

この研究ではpure indirect reciprocityに着目する。そのために独裁者ゲームを改良した3人独裁者ゲームをやるよ。具体的には順にA,B,Cと並ぶ。まず面白い結果として、3人独裁者ゲームと通常の2人独裁者ゲームを比較すると3人版のAさんはより多くの資金をBさんに渡している。それと、今回主に着目するのはsocial interactionで、AとBの間にゲーム前にインタラクションを用意するという効果だ。インタラクションとしては顔を合わせないようにしてスクラブルゲームをやらせる。それにAの額がランダムになるか自分の意思かというランダム条件も比較対象とする。するとinteractionトリートメントでより多く渡してる(まあそりゃそうだろうよ)。

実験設定:A→B→Cの独裁者ゲームをおこなう。A・B間で最初に(顔は合わせずに)別のゲーム(スクラブル)をやるinteraction、Aの意思決定がサイコロもしくは自分の意思で決めるrandom、普通にDGを連続でやるbaselineの3つ。比較のため通常の2名DGもやる。

Aの行動:interactionによって渡す額は増加する。それ以外のトリートメントの効果なし。性差と収入も影響してる(いやぁ、これどうだろうか)。
Bの行動:interactionによっては増加しなかった。むしろAからいくら渡されたかが強い決定要因。そして期待して多額より受取額が大きいとそれをキープする方向に働いて渡す額が減る。ランダム条件でもbaselineより減る。

細かいところを読み飛ばしてるけど、なんかあんまり一貫したロジックが見えないような。まあいいや。似たこと考える人は多い、と。

2019年12月21日土曜日

感情を表出することで第三者への負の互恵性を減らせるよ

恐怖。論文がひとつも完成しないまま年を越しそう。グリューワインが悪いんだ。

負の互恵性の連鎖の実験。あれ今似たことやってるんだけどすでに3年前に決着してたりする?

Strang, S., Grote, X., Kuss, K., Park, S. Q., & Weber, B. (2016). Generalized Negative Reciprocity in the Dictator Game ? How to Interrupt the Chain of Unfairness. Scientific Reports, 6(1), 22316.

やられたらやり返すは負の互恵性として知られているけど、他の第三者へ行為が波及する「一般的負の互恵性」もあるでよ。もしネガティブな感情が一般的負の互恵性の根底にあるなら、感情を効果的に調整すればこれを減らせるかかもよ。実際、感情を表明する機会を与えられた場合最後通牒ゲームでの拒否率が下がるっていう結果もある。けど先行研究では感情を明示的に測ってないし、感情が変化したかどうかもわかってない。

ということで疑問点は1)感情を表明するメッセージを出すことは感情の調整に有効なのか、2)効果的な感情表出は一般的負の互恵性を減らすのか、の2点だ。

実験1:感情表出の効果を測るでよ。まずはスタート時点の感情測定をします。そんで独裁者ゲームの受け手になる。測定対象は不公平分配をされた人たち。ちなみに参加者は女性のみ。なんとなれば、女性のほうが負の刺激に対して感情反応があるから(by先行研究)(ツイッタなら炎上必死のコントロールだな)。

実験操作は、不公平分配をされた後に4群にわけてる。それぞれ、何もしない、感情中立的な絵を描く、メッセージ書く(相手にわたらないと教示)、メッセージ書く(相手に伝えると教示)。さあ操作後の感情を測って変化を従属にした分散分析レッツゴー。主効果OK!コントロール群と相手に伝わるメッセージの間に有意差あり。それ以外の下位検定では差がない。メッセージ表出で感情の調整に成功したといえるでしょう。

実験2:ではこの操作で第三者への負の互恵性行動に影響を与えるのか。レッツトライ。操作は実験1で差が明確だったコントロール群(何もしない)と、相手に伝わるメッセージを書くの2通りでいきます。その後、実験1に加えて、その後別の第三者相手に独裁者ゲームの分配側をやらせます。

見事、メッセージ群で分配額が増えました。ということで感情を表出することで負の互恵性の連鎖を軽減できるよ。

なるほどねー。

2019年12月7日土曜日

Exploring the effects of working for endowments on behaviour in standard economic games

ブログなんてありましたっけ、知りませんなあという態度で2年が経とうとしている。

公共財ゲームでインセンティブの与え方とかを実験しようとしているので関係しそうな論文を読む。またの名を現実逃避。

Harrison, F., & El Mouden, C. (2011). Exploring the effects of working for endowments on behaviour in standard economic games. PLoS ONE, 6(11), 1-6.

協力の進化の経済実験は実験実施者から元手を渡されるけど、実際には資金を得るのにもコストかかるしそれは行動にも影響を与えるでしょう。ということで被験者が資金を得るのにコストがかかる状態(退屈なタスクと物理的なタスク)で、公共財(PGG)と独裁者(DG)ゲームをやるよ。独裁者ゲームでは労働の効果は出なかったけど、公共財ゲームでは退屈なタスクをやった組は協力率が減った。ただしゲーム理論を知らない人に限る(え、その縛りちょっと不自然じゃ・・・)。


協力の進化研究では経済実験は超メジャー、いろいろやられてるよ。実験室実験の結果は実際の行動の傾向と良く相関するという議論もたくさんあるけど、実際の行動を予測しないという研究もある(こっちは1つだけ引用されてる)。実験の結果も一貫してない。

というわけで2つのタイプの労働を課す実験で協力行動が異なるか調べます。

M:コントロール(普通に資金提供)
T1:ピペット作業
T2:スクワット

DG:ワンショットで分配したぶんはUKチャリティに行く。被験者が提供される額を5通りやる。
PGG:5ラウンドの繰返しありPGGをやる。第3ラウンドだけ条件をコントロール。それ以外のラウンドは普通に資金提供される。


結果いきます。DGでは条件間の差は見られない。微妙に提供される額と寄付額に負の相関。小さい額だと投げ銭的になったんじゃなかろうか。PGGでは全体的にラウンド経過とともに投資額は減る。これはみんな知ってる結果と一貫してる。1,2ラウンドで条件間の差なし。

さてメインディッシュ、3ラウンドの結果いきましょう。メインエフェクト効果なし!(切ない)。しかし、「ゲーム理論を知ってるか」とコンディションの交互作用は有意でした、どーん。

我々の結果は、標準的な協力ゲームの利用を損なうものではない。我々はこれらのゲームが人間の行動をより一般的に説明する力がある証拠を見つけてはいない。でも、でも、我々の結果はゲーム理論を知っている人とそうでない人の参加者プールで行動が異なることに注意する必要があることを示唆している。

しっかし、ゲーム理論知ってるかどうかなんてよく質問項目に入れてたな。というかこれくらいしか有意にならなくて泣きそうになる気持ちは良くわかる。"our results do suggest that we should be aware that"という苦しい書き方は涙なしには読めません。

でもこれもPLoS oneだ。心を強く持って頑張って論文を書こう。