ちょっと古いけど評判システムの話が積読フォルダに入っていたのを掘り出す。そういえば協力の進化を始めたのはそもそも評判システムをモデル化してる流れだったんだよな。なつかしい。ノスタルジックな気分半分と最近抽象的なモデルばっかりな反省を込めて読む。
Brown, J., & Morgan, J. (2006). Reputation in Online Markets : Some Negative Feedback. California Management Review, 49(1), 61-81.
Abst.
オンラインマーケットの発展ぶりといったらない。地理的な制約・様々な物理的コストの大幅な削減でバイヤー・セラーの両者に「デモクラシー」をもたらした。しかしその流動性ゆえに、匿名性、取引相手の信頼性という新しいチャレンジが生じている。信頼の問題はキーポイントであり、eBayなどは評判システムによってLock-inが生じてAmazonやYahooの挑戦を退けている。さて問題は、eBayにおいて“market for feedback”が発生することだ。それは評判を加工するためのフィードバックの売買である。問題の所在をケーススタディで明らかにして、eBayが将来のためになすべきことを提案しましょう。
イントロの前半ではインターネットの発展で参入退出容易なオンラインマーケットが発展して、とくにeBayは大成功。その要因として評判システムが超重要、というお話。散々講義で話したので個人的には飽きた。
そこで問題となるのは、悪いセラーは相対的に小さなコストで評判を蓄積できるので最後に一発でかいとりひきで詐欺を働けば十分儲かってしまう。これは評判システムのアキレス腱だ。これをeBayを対象としたケーススタディで明らかにしようではないか。
評判は本当に価値があるのか?古銭の取引ではポジティブな評判は効果を持っていなかったが、ネガティブな評判は価格を引き下げていた。エレキギターでも同様のパターンがあった。関係なし、という結果もある(この辺ぜんぶワーキングペーパーを引用してる)。その他いろいろ引用するに、まあ評判には経済価値があるのでしょう、と。
しかし問題はここですよ奥さん。50セントでゴールデンゲートブリッジのデジカメ写真が売られたら買うか?と。買うんです。なぜならポジティブフィードバックを得るために。評判を高めるために。ここでA氏というケースに着目。A氏はeBayでポジティブフィードバックを得る(安い意味のない商品を買ってもらい、最高評価を返す)ことを派手にやったユーザ。このあとA氏の悪行が連なるけど、面倒なのでスキップ。
さあ、データ収集して統計的に分析する(やっとだ)。feedback marketで良く使われるキーワードを精査して6526のリスト(526のユニークユーザ)を抽出した。そのうち5127は結果的に販売されていた。そして80%以上の商品は「Buy-it-nowオプション」使っている。つまりオークションせずに固定価格で売っている。しかも売買価格は驚くほど安くて誰も得していない。ポイントは、取引自体ではなくて評判ポイントをお互いに得られていることだ。利得のヒストグラムをプロットしてみても、多くの取引で手数料の方が高いくらいの安い価格が設定されるので売り手は損をしている。まとめると、eBayの評判システムにはこのような評判の結託の脆弱性があるぞ、と。これを克服するには、例えば取引価格で重みづけした評判ポイントを導入することなどが考えられるけど、既存顧客のロイヤリティをそこなうリスクもある。
んー、まあ、はい。そういえば評判インフレのモデルを作って発表したまま放置ってのがあったなぁ。この論文もそうだけど、そのときのつっこみは「そうはいってもほとんどの取引はうまく言ってるからシステムとしては頑健なんじゃないのか」というもの。評判システムの脆弱性は面白いけど若干重箱の隅をつついてる感がぬぐえない。
ただ評判システムのコストを無視した間接互恵モデルにも限界はあるだろうから、やれることは残ってるでしょう。いやそれにしても懐かしいネタだった。この論文も10年近く前のものだし、現時点では評判システム研究はどんな感じなんだろう。