2020年1月11日土曜日

付合うなら金持ちがいいよね、それが互恵性の実験であっても

新年明けたくらいで出てくるほどおれのやる気は軽くない。

この前社会心理学会で見た実験が面白そうだったのでチョイ足しレシピで実験したらなんか面白いんじゃないかと思ってやってみた。簡単に調査できるネット環境はほんとありがたいもんだ。そしてとりあえず実験してから関連論文を探すといういつもの泥縄大作戦。不均一な資源を想定した社会的ジレンマが個人的に最近熱い(Nowak達がNatureに載せたから)という理由もある。恥ずかしげもなくミーハーな動機で周囲をボチボチと検索。学生が見っけたやつを読む。もしかして既に結論出ちゃってますか。

Hackel, L. M., & Zaki, J. (2018). Propagation of Economic Inequality Through Reciprocity and Reputation. Psychological Science, 29(4), 604–613.

アブスト:資源が不均一に分布しているときの互恵性の負の効果(経済的不平等の悪化)を見てみましょう。実験結果によるとですね、裕福な人と貧しい人を作って互恵的ゲームをやると同程度に互恵的なふるまいをしてても裕福な人はより多くの返報を受けるし、評判も高くなるので市場でより優位な立場に立てたよ。

本文:互恵的協力大事云々。で、多くの研究ではみんな同一の資源を持って実験に参加するけど実際の社会は超不平等じゃん。

互恵性と不平等の合成でどんなことが起こるだろう。一つにはシンプルに期待報酬量で決まるというものだ。同じ50%の返報でも、100のうちの半分と20の半分じゃ前者のほうがいいに決まってる。実際そういう結果も結構ある(あとで引用チェック)。他方、寛容性と報酬量の両方が影響するよっていう研究もある(著者たち)。

でこれをもっと明確な互恵ゲームに適用して詳細な分析をしようではないか。

実験1:Giver群はリッチ組とプア組に分かれる。そんで元手の20%か50%のいずれかを分配するかという意思決定を36セットおこなう。後にマッチングされるRecipientが結果を見ることは知らされているがRecipientが返報機会を持つことは知らされない。よって直接互恵は喚起されてない。続いてRecipient群はランダムにマッチされたリッチ組・プア組Giverのどちらかを選ぶという操作を60回やる。そして毎回好きなポイントをGiverに返報できる。

実験2:Giverは同じ仕組み。Recipientのやることもほぼ一緒。違いは互恵返報フェーズの代わりに、今度はGiverの評価を5段階でおこないさらに一つ先のRecipient(Investorとする)に対して情報提供する。そしてInvestorには複数Giver候補が提示されるので、相手を選んで信頼ゲームをおこなう。

まず、実験1の返報割合だが50%シェアするGiver(寛大Giver)と20%シェアするGiver(ケチGiver)の間に差がある(あたりまえだ)。ケチGiverのなかではリッチ組のほうが返報をより多く受け取っている。実験2の5段階評価ではその傾向はより強まって寛大Giver内でもケチGiver内でもリッチ組のほうが高い評価を受けている。さらにはInvestorから投資を受けるGiverもリッチ組のほうが高い(倍くらいある)。

ということで、もちろん寛大・ケチの差は互恵的ふるまいに影響を及ぼすんだけど、資源が多い人を選ぶという傾向も同時に観察できる。これは不公平の拡大をどんどん拡大するプロセスを説明しているんじゃないの。

なるほどおもしろい論文だった。けど細かいセッティングでなんか冗長だったりしないのかな。たとえばGiverは実際に存在させなくても実験者が用意できちゃうしそのほうが条件をコントロールしやすそう。デセプションを避けるのが目的なのかな。ふむ、なんか自分のネタもいけそうな気がしてきた。