ちょっと早めに近所のバーに行くかなと思って来たら、先客1名の年配男性が微妙にすすり泣きながら飲んでる。店内にはバーテンダー含め3人。し、仕事のふりをしよう。アップストリーム祭りその2。実験結果だけ見ていた論文をもう一度読む。
Upstream互恵を、ジレンマのフレームではなくて援助行動研究の知見を使って分析するよという論文。
相川充, & 吉野優香. (2016). 被援助者による第三者への向社会的行動の生起過程に関する検討. 筑波大学心理学研究, 51, 9-22.
恩送りって間接互恵の一種だけど不思議だよね。間接互恵のDownstream型は今までわんさか研究がある。行動が評判として共有されることが協力を促進するというメカニズムも明確だ。実験もたんまりあるし理論もたっぷりだ。他方Upstream互恵は評判みたいなメカニズムも提示されてないので一体それは何なのかよくわかってない。Upstream互恵が存在することは(Barlett & DeSteno,2006)で示されてたりする。また直接互恵が働く環境で観察されるだけだという主張もある(Nowak & Roch, 2007)。(ついでに最近のHorita et.al., Sci.Rep., 2016ではALLCが隣合わさっただけじゃんという主張をしている)。
つーことでUpstream互恵がどうして生じるのかは良くわかっていない。Upstream互恵は要するに「過去に受けた協力を認知してそれを誰かに対する行動として発現する」ということなんだから、ここを詳しく見ます。フレームとしてはこれまで多くやられていた援助行動研究の知見を応用するよ。ということで、被援助経験がどのように認知されて、向社会行動に結びつくのかを構造方程式モデリングでやります。
んー、援助行動てそのまま互恵性にぴったり当てはめられるのかいな。まあ利得構造自体はそのとおりなんだろうけど、以前読んだ行為者の視点(どういうゲームと認識しているか)も検討しないとずれそうな予感もある。まあいいや、続き。
被援助者は助けられることで2種類の感情を生起するだろう。感謝や誇りというポジティブ感情、負債感や自尊心の傷つきなどのネガティブ感情。いずれも結果として向社会的行動に向かうと考えられるが、前者から考えられるのは互恵的意識による行動、後者は返礼意識による行動である。つまり被援助経験のときに生起した感情によって向社会的行動をドライブする動機が異なるでしょう。ということで構造方程式を次のように立てます。
被援助経験→感情体験→動機(互恵的動機/返礼的動機)→向社会的行動
なお、動機に直接影響を与える要因として「援助規範意識」「共感性」という個人特性も加えます。
さて調査。質問紙&場面想定法で行きます。まじかー、いや自分もゼミでやるとなると場面想定くらいしか使えないんだけどこのテーマでそれは大丈夫なのかいな。いや今の無し無し。超特大ブーメランだ。
被援助体験:過去二週間で一番印象に残る被援助経験
感情生起:その時に生じた感情について8項目で
6種類の援助場面での向社会的行動の意図:分与、緊急事態の援助、努力を必要とする援助、迷子等への援助、社会的弱者への援助、小さな親切
結果行きます。率直に読むとパスモデルは成立していない。まずは被援助体験がネガティブ感情を生起していない、また感情生起がいずれの動機へも影響を与えていない、個人特性である規範意識が動機をドライブしてそれが向社会的行動につながる。あとは感情生起がそのまま行動につながる。考察では綺麗には出なかったねと言いつつも、「感謝」は向社会的行動につながるので、被援助体験→感謝→向社会的行動というパスは頑健に成立する。つまりは感謝がUpstream互恵の媒介要因だ、と。なるほど、いや、うん?要するにBartlett&DeSteno,2006が再現dということなんだよな。
Upstream互恵を心理的メカニズムで追い詰めようというのは面白かった。結果がいまいちだったのは場面想定の弱さもあるけど、Upstream互恵が単独では生じ得ないことの傍証にもなっているのではなかろうか。
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