2015年2月27日金曜日

沈黙の螺旋理論(SoST)のエージェントシミュレーションレビュー(1)

沈黙の螺旋調査のパネル論文を書くという宿題がありつつもシミュレーションでもやってみたいのでざっとレビュー。

Yunhwan Kim, 2013, CSSSA Papers, Dynamics of the Silence of Majority from the Perspective of Social Dilemma

100×100の格子にAgentを配置。戦略は「ALL発言」「多数派なら発言」「少数派なら発言」「沈黙」。初期状態ではランダムに発言か沈黙を選択。周囲8エージェントの発言数を聞いて多数派・少数派を判断。

で、αが多数派で発言したときの利得、βが少数派で発言したときの利得(はっきり書いてない)。γ、δに至っては定義がない。たぶん多数派沈黙と少数派発言。

シミュレーションする。α>β,γ,δのときは発言が戦略の存在比に従ってのこる。なぜならローカル多数派があり得るから。δ>α,β,γなら沈黙。そりゃそうだ。α=δ>β=γでは途中で発言がなくなり全員沈黙。そりゃそうだ。ローカル少数派で発言するよりも沈黙が最高値だから。

なんだこりゃ。ひどい。次。


Iván Blanco,2013, MPRA Paper 45452, University Library of Munich, Germany.,The silence that precedes hypocrisy: a formal model of the spiral of silence theory

SoSをゲーム理論に基づいて定式化する。

状況としてプレイヤーは意見A,~Aを持つ。戦略は喋る(S)か黙るか(~S)で、両方喋ってAgreeならbを受け取り、両方喋ってDisagreeなら-cの利得(b,c>0)。つまりランダムで選択された2者の意見が一致しているときと一致してないときで利得表が異なる。更にそれをプレイヤーは知ることができない。

2人ゲームならナッシュ均衡は喋る確率Sp=c/(b+c)。さて、これが多数になると解けないからシミュレーションする。

qが相手と意見が一致すると思う確率、pが相手が喋ってくると思う確率。qのアップデートはベイズルールでおこなう。詳細な数式の展開は端折ったけど、相手が喋ると相手の意見がわかってAgreeだと多数派認知(q)が高まる。そうでないと減る。

人々の初期の多数派認知の値(q)が高いと均衡に達するのが速い。多数派割合が高いと多数派のみが喋るが、閾値以下だと全員が喋る。


ゲーム構造の設定は面白い。たしかに公共の場での意見表明をシンプルにモデル化できている。
もうワンステップ伸ばせば面白い応用がありそうだけど、当然ノーアイデア。うーむ。

Chengjun Wang, 2011, WAPOR2011, The Emergence of Spiral of Silence from Individual Behaviors:Agent-based Modeling of Spiral of Silence

イントロが丁寧そうなので細かく読んでみる。

Abst.
目的
1.SoSが生じる境界条件を見つける
2.SoSに社会的相互作用が与える影響を正確に測定する
3.時間・サイズの不均質性の面から動的な特徴を分析する
結果
1.マスメディアの影響力が準拠集団のそれを上回るときSoSが安定的に生じる
2.マスメディアと準拠集団に対するローカルな視点を伴った異質な個人のボトムアップな相互作用はSoSを引き起こすもととなる。特異的にはSoSの成長速度を経時的に減少させる。なんじゃらほい。

Introduction
世論形成過程は世論研究の重要なトピックだ。SoSは個人のマスメディアと準拠集団(reference groups)との相互作用のダイナミクスを説明している。

しかしempirical studiesでは一貫した結果が得られておらず侃々諤々の議論が続いてる(Donsbach& Traugott, 2007; Glynn, Hayes, & Shanahan, 1997; Scheufle & Moy, 2000)。加えて、集合的な変数と個人的な変数の相互作用の分析もかけている。と言うわけでABMを用いて、SoSが生じるの境界条件、時系列的な成長過程を分析しよう。

Literature Review

ノエルノイマンのレビューをしたうえで(Last-minute swingに着目してるけど言ってることはふつうのSoS)、SoSには3つのレベルがあると。個人レベル、準拠集団レベル、社会レベル。

個人レベル:発言の意図、孤立の恐怖、デモグラ変数
準拠集団レベル:グループサイズ、集団の雰囲気、集団の社会資本
社会レベル:文化の性質、メディアのパターン

事実、文化の影響は近年のSoS研究の実り多い分野だ。しかし、個人のメディア利用行動とメディアの特徴は分別されるべきだ。

このあとメディア効果理論が照会されて、メディアに対抗するものとして準拠集団理論が紹介される。またSoSが生じる要因として良く使われるのが多元的無知だ。多元的無知では個人は自分の意見を誤ってマイノリティと認知してしまう。あとはハードコア・アバンギャルドがマスメディアと対抗する。

人の行動が情報流通に依存しているなら準拠集団は重要となる。でもこれらのダイナミクスはやられてないはずだから自分たちがやる。

Rsearch Framework

閾値モデルが良く使われる。シェリングの分居モデルを起点にいろんなことがやられてますね。

この研究では個人とマスメディア・準拠集団との相互作用を扱うのがポイント。マスメディアはメインストリームの意見を個人にダイレクトに伝える。準拠集団は、個人がマイノリティならパニッシュするし、そうでないなら行動を補強する。マスメディアと同じ意見を持つ人にとっては準拠集団はマスメディアの影響を強化する。逆にマスメディアと反対の意見であれば、準拠集団に頼るためマスメディアの影響は弱くなる。

RQ1:SoSが安定的に生じる巨魁条件はなにか?
RQ2-1:人口の大きさの影響はSoSを生じさせるか?
RQ2-2:準拠集団のサイズはSoSを生じさせるか?
RQ3:どのように人々は時系列的に沈黙していくか?

Method

ずっとABM礼賛、と。

Measure

Axelrod大先生もKISS原理を言ってるのだから乗っかるよ。SoSに影響を与えるものはたくさんあろうが「意見表明意図、ソーシャルネットワークの影響、マスメディアの影響」に限るぞ。

意見表明意図

平均0分散1の正規分布で発言意図を与える。また彼らの意見はメインストリームのものと一致してる。発言意図は意見の情勢によって変わる、情勢が自分と逆だと認識すると沈黙する。

準拠集団の影響

エージェントはネットワークに埋め込まれて、自身から見える半径内のエージェントの発言意図を足し算する

マスメディアの影響

初期のメディアの影響として(0,1,2,3,4,5)の大きさをランダムに持たせた(エージェントごとに異なる)

モデルの挙動

W_(n,t):エージェントnのt期における発言意図
M_(n,t):エージェントnのt期におけるメディアの影響力
R_(n,t):エージェントnのt期における準拠集団の情勢

W_(n,t)=W_(n,t-1)+αM_(n,t-1)+βR_(n,t-1)

Rは周囲の足し算、M_(n,t)の決め方は書かれていない。

時系列で沈黙になる人の数をプロット(沈黙はW<0かな、わからん)。このモデルは一体なんだ。。。

結果としてはマスメディアの影響が大きいと(α>β)、必ず全員が沈黙。準拠集団のほうが影響が大きいといろんな結果になる。メカニズムが全然書かれていない。

何と言うか超大げさな仕掛けを作って当たり前のことを言った感が満載。

つづく

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