2017年5月18日木曜日

直観と熟考を協力の進化に取り込む論文2つ

直観と熟考の認知モデルを進化ゲームに取り入れるというアプローチ。連続でPNASとProc. R. Soc. Bに載せるというすんごい人たち。溜息しかでない。共著者グループ内で当然知ってるという前提で議論が進んでるけど、まったく読んでなかったのでこっそり読む。こそこそ。

Bear, A., & Rand, D. G. (2016). Intuition, deliberation, and the evolution of cooperation. Proceedings of the National Academy of Sciences, 113(4), 936-941.

「直観」と「熟考」の効果をジレンマに理論的に取り入れる。システム1、システム2の働きは近年とても注目されているし、協力の進化に与える影響も議論を呼んでいるところだ。伝統的な進化ゲーム理論では行動には着目してきたが認知のことはまだまだうまく取り入れられていない。ということで認知のデュアルシステム(直観と熟考)を取り入れたモデルを作ります。

ゲームはPDで確率pで繰り返しゲーム、1-pでワンショットゲームとなる。エージェントは自身の戦略としてT(直観モードか熟考モードかの閾値)を持つ。ランダムに与えられるコストdがTより小さければコストdを払って熟考モードとしてプレイするが、逆の場合はコストを払わず直観モードでプレイする。また、直観モードの時はどちらのゲームでもs_iの確率で協力する。熟考モードではワンショットゲームだったらs_1、繰り返しだったらs_rで協力する。

さて均衡戦略は何かというとIntuitive Defector(T=0:常にに直観モード、s_i=0:確実にD)は均衡となる。しかし何ということでしょうDual-process Cooperator(T=c(1-p)、s_i=1,s_1=0,s_r=1:直観モードで協力、熟考では繰り返しのときだけ協力)も均衡なんです。

Bear, A., Kagan, A., & Rand, D. G. (2017). Co-evolution of cooperation and cognition: the impact of imperfect deliberation and context-sensitive intuition. Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences, 284(1851), 20162326.

そして立て続けに第二弾。さらには状況に不完全さを導入。ゲームも2タイプ(ジレンマ、コーディネーション)に拡張、それぞれのゲームでの協力率を戦略として持つ。

エージェントは直観モード閾値Tと、各状況での協力率4つを戦略として持つ。直観・ジレンマの時の協力率S_iD、直観・コーデS_iC、熟考・ジレンマS_dD、熟考・コーデS_dC。

まずは認知プロセスで前の論文と同じようにTで直観モードか熟考モードに分岐。続いて確率pでゲームの種類がわかれる。今度は繰り返しかどうかではなくて、ジレンマゲームかコーディネーションゲームに分かれる(pでコーディネーションゲーム)。続いて、直観モードの時にはy_iでゲームを正確に理解し、ジレンマならS_iD,コーデならS_iCの確率で協力する。一方1-y_iで使う確率が逆転してしまう。熟考モードでも同様(y_d)。y_i,y_dは環境パラメータ。

そうすると均衡戦略は4つになる。ID(T=0,S_i*=0), IC(T=0,S_i*=1), Dual-Cooperator(T>>0, S_i*=1, SdD=0, SdC=1), Dual-Attender(T>>0, S_iD=0,S_iC=1, SdD=0, SdC=1)。

まずはpを動かして均衡戦略を見てみる。y_i,y_dの組み合わせで均衡戦略の相が変わる。例えばy_d=1, y_i=0.5ではp<0.3でID、それ以外ではDCが均衡。一方ID,IC,ICの場合とか、ID,DA,DCの場合とかがある。でパラメータをいろいろ動かして相図を見てみます。

最後にまとめとして、deliberationの効果をみるとジレンマに対してはDCもDAも協力を減らす効果、一方コーディネーションについてはDAが協力を増やす効果。

詳細は読み飛ばしたけど認知の二つの仕組みをモデルに取り込むやり方としてはシンプルで格好いい。さすがだなぁ。直接バッティングはしないけど認知プロセスをモデルに取り込まなくちゃだめだよねという良い先行事例になりそう。

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