2015年11月21日土曜日

違反抑止メッセージが社会規範からの逸脱行動に及ぼす影響

なんと入試監督の集合時間を2時間も勘違いしていた。いやー焦った。実害が(ほぼ)なくてほんと助かった。以前には学長選挙ぶっちして相当おこられたので、いよいよやばい気もしてきた。

著者たちは去年ゼミ生が追試した油尾(2012)の指導教員なのかな。それの出発点になってそうな論文をよむ。

追試は儚い結果になったけど。再現しない追試ばかりやってる人生でした。

北折充隆, & 吉田俊和. (2000). 違反抑止メッセージが社会規範からの逸脱行動に及ぼす影響 -大学構内の駐輪違反に関するフィールド実験:大学構内の駐輪違反に関するフィールド実験. 実験社会心理学研究, 40(1), 28–37.

社会規範からの逸脱を抑止するメッセージについてメッセージの内容、実際の逸脱状態の2つをコントロールして実験する。某国立N大学をフィールドにするよ。

Cialdini et.al.(1990)は渡されたチラシのメッセージによってその後のポイ捨ての率が変わったことを示している。心理的リアクタンス(Brehm,1966)によると(うわ、そんなのがあるんだ)、違反抑止の文脈だと「○○禁止」よりも「○○厳禁、○○するな」のように強く命令的に禁止するほうが違反が多くなると考えられる。

えーと、どれが電圧でどれが電流に該当するんだ。電圧がメッセージの強さで電流が、ちょっとわからんや。こういう心理的○○とか社会的○○、みたいに○○に科学用語をいれて比喩的にアイデアを売り出すのってどうなんだろうね。社会的ワクチン、とか。

とにかく、メッセージの強さ(強い命令)は逆効果だろうと。更には制裁の提示が協力率を上げることは箕浦(1987)たちの研究でも知られている。一方で、Cialdini(1990)はあらかじめポイ捨てされているチラシの量が非協力(ポイ捨て)を促進すると言っている。メッセージ×状況で研究します。

(1)駐輪禁止(2)ここに自転車 ・バイクを止めるな。(3)指定の駐輪場を利用 して下さい。放置自転車は処分します。(4)授業の妨げとなるのでバイクの侵入禁止。(5)一人が止めると後も続きます。ここに 自転車 ・バイクを止めないで下さい。という5つのメッセージを用意する。それぞれ、普通、命令、制裁、理由、同調抑止を提示している。

【実験1】上記5つメッセージを取り換えながら何日も物陰から観察実験する。条件としては対象の空間を常に実験者が整理して違反自転車がない状態とする。結果は、ほとんど違反はなかった(トータルで1台だけ)。これは違反ゼロをつくったということが強くきいているだろう。

【実験2】同じメッセージを使うが、状況としてあらかじめ1,2台が置かれている状況を維持して実験する。結果は、制裁メッセージが他の4種類に対して違反率が低い(協力率が高い)となった。

【実験3】同じメッセージ。状況は常に5台が違反自転車となる(実験者が5台用意して、誰かが違反をするたびに実験者の自転車を一台撤去して常に5台にする)。実験者の自転車がなくなった段階で1セッション終了。結果は、メッセージ間の効果の差はなくなった。非協力率を実験2,3間で比較してないのかな。

結論として、制裁の提示が逸脱者が少数の時にのみ特別な効果を持った。制裁の提示は状況依存的であり多数の逸脱者がいる状況では効果が薄れる。

なるほどなぁ。この実験では1台のみの違反駐輪というのは制裁が実施されうることを示してるからうまくいってるのだろうか。ジレンマ実験でサンクションがあればパニッシュはちょっとで大丈夫というのがあるが、実はその結果から読み取るべきメッセージは、大事なのはサンクションが実施されるということを参加者が認識していることなんじゃないかと、この論文を読んでて思った。ということは、ジレンマにおける協調では「裏切りがあること」がばれても構わないけど「裏切りが罰せられないこと」がばれるのが一番まずいと。つまりは2次サンクション+社会的ワクチンが素晴らしいアイデアだと。。。「サンクションが実施されているかどうか」というシグナルが大事っていうアイデアどっかで使えないかな。

2015年11月20日金曜日

行為者の視点を含んだ社会的ジレンマの検討

日々に追われて早くも師走がすぐそこだ。書かなくちゃいけない論文も準備しなくちゃいけない資料も山盛りだけど現実逃避ぽく読む。

環境問題等を社会的ジレンマでフレームする研究は多いけど、行為者自身がジレンマとして認識してるのかどうかによって全然話が変わってくるだろうという主張。面白そう。

篠木幹子. (2014). 行為者の視点を含んだ社会的ジレンマの検討. 総合政策研究, 22, 45–56.

環境問題は社会的ジレンマだとフレームして研究する論文はたくさんあるけどそれって研究者がそう理解しているだけで、行為者はそもそも問題をジレンマ状況と認識しているのかどうか怪しい。つまりは、実社会の(ジレンマ問題として定義できる)問題を行為者(当事者)は社会的ジレンマと認識しているのか、またそのうえで協力/非協力を取る人の特徴はなんだ。

山岸他(2002)では実験室環境で実験すると参加者はDCよりもCCを好むゲームとして認識していたと言っているし、Pellikaan(2002)でも面接調査で社会的ジレンマの状況を説明したうえで、TRPSのどの状態を好むか聞くと、R>S>T>PとかR>T>S>Pとかを参加者は好んでいた。これらの研究は山岸他(2002)ではジレンマ構造を備えた実験状況に対して参加者がどのように認知したかを問うており、Pellikaan(2002)はジレンマを了解したうえで協力/非協力のどれを好むかを問うている。海野(2006)は「コスト感」「危機感」「無効感」を対象者が持っているかどうかでごみ問題を社会的ジレンマととらえているかどうかを推定している。これは先駆的であるが、うちらは行為者が「環境問題が社会的ジレンマである」と了解しているのかどうかを問うたうえで、その了解によって行動が異なるのか、また了解の上で協力/非協力となる人たちをあぶりだす。

ごみ問題を対象としてごみの減量行動を問うよ。ごみ分別の制度の違い、都市規模の違いを考えて、仙台、釜石、名古屋、水俣で実施します。1都市1000人で4都市に質問紙調査を実施する(すげー)。郵送して回収は調査者が回収に行く(ひえー)。回答者は家事担当者にしたので85%以上が女性である。

さて、最大の山場である「行為者がごみ問題を社会的ジレンマとして「仮説的に」了解しているのかどうか」の検討である。「ごみ問題が生じるのは,地域社会全体への影響を考 えず自分の都合を優先してごみを捨てる人が多 い」と思うかどうかを聞いてその回答がイエスの人を社会的ジレンマと了解している人たちとする。4都市すべてで90%以上の人たちがイエスであり、多くの人たちにジレンマと了解されていると解釈できる。

いやー、難しいクエスチョンだとは思うんだけど、これは厳しくないかなぁ。今後の課題でもこの点には触れられているけど、この研究のコアだよなぁ。そして9:1のサンプルでこの後分析してくのか。うむ。

さて、協力行動の量については9項目の行動ではかる。すなわち「アルミ缶の分別」「トレー包装野菜の不買」などなど。これが6項目以上イエスだと行動多い群、5項目以下で少ない群にわける。

これも結構微妙かな。節約に関する項目や制度で決められてる分別なんかが一緒に入っている。まあごみ減量行動をどの程度実施しているのかという指標にはなっているのでいいのか。

ということで、社会的ジレンマの認知(Y/N)、行動の多少で4カテゴリになる。これらの人たちが「社会に対する価値観」「規範意識」をどのように持っているかを検討する。

「多くの人は自分のことしか考えていない」については、SD認知+非協力の人たちが高い。
「一人ひとりが社会全体に対する影響を 考慮して行動すべきだ」については、SD認知+協力が高い。
「手間がかかるとしても環境に配慮すべき」 「他者の行動にかかわらず環境に配慮すべき」についてはSD認知+協力が高い。

細かいことだけど、これ一元配置でやっちゃってるけど二要因でやらなくちゃいけないはずだよね。

結論として、社会的ジレンマを認知し協力する人たちは、社会的ジレンマ解決に向けた規範に強くコミットしているので、こうしたところにジレンマ解決の糸口があるのではないか。

リサーチクエスチョン面白いなあ。状況を社会的ジレンマとしてフレームしてるかどうかを含めて分析しなくちゃだめというのは強いメッセージだ。ソーシャルメディア(CGM)のモデル化でもこの視点あったほうがいいだろう。そもそも実験環境ですら山岸他(2002)みたいにジレンマじゃないと認識しているのだし、当事者が状況をどう認識しているかでサンクション制度だって変えていかないと意味ないよな。面白い課題設定で大規模調査やっててすげぇなぁ。勉強になった。