2014年9月20日土曜日

感情予測におけるネガティブ経験の効果 : 経験は他者の感情予測に役立てられるか

後期の準備がぜんぜんおわってない。というか手を付けてなかったりもする。まずい。まずいけどやる気が起きないので論文でも読む。

桑山恵真, & 工藤恵理子. (2010). 感情予測におけるネガティブ経験の効果 : 経験は他者の感情予測に役立てられるか. 社会心理学研究, 26(2), 109-118.

人はネガティブやポジティブな出来事がおこった後の感情の予測をする時に、その感情の持続に対して過大評価する傾向があることがわかっている。この傾向はけっこう再現性がある。これはネガティブな出来事を実際に経験したときには正当化や自己高揚などの心理的な免疫システムが働くにもかかわらず、人がそのシステムに気付かない(免疫無視)が原因である。

例えば、もし失恋したらどれくら辛いだろうという予想と実際に失恋した後の辛さでは予想の方が辛かったりする。それだよ、と。(えー、そうだっけ・・・?)。まあいいや。

まあその理論に従いますと、これは経験したときにはネガティブな出来事が深刻であるほど強力に働くと考えられるから、経験したことのネガティブ程度が大きいほどこの効果は大きいだろう(これってポジティブ方向にはどういうエラーがおきるんだろう?)。今回はネガティブな経験を実際に体験した時と、ネガティブな体験をしたと想像したときに、それぞれどの程度ネガティブな度合いを感じるのかと言う実験をおこなう。

仮説1:実際にはネガティブな経験をしない人は、した人の実際の感情よりネガティブに予測する。またこのバイアスはネガティブ度合が強いほど大きい。
仮説2:予測する場合、自分に対しても他者に対しても同程度にネガティブに予測する。経験者は自分がそれほどネガティブな感情ではないはずだが、他者に対してはネガティブが持続していると予測する。

実験計画はこんな感じ。評価対象(自己の感情・他者の感情)と判定(B判定・D判定)と役割(予測者・経験者)の3要因。統制変数として、ベースライン感情、試験の結果をどう正当化したのかの尺度。経験者条件の被験者は、能力テストに解答する。彼らはB判定・D判定をランダムに受け取って、5分ほど待たされてからその時の自分の感情と他者の感情の予想を回答。予測者条件では、実際にはテストに解答せずに架空の成績をうけとり、5分後の自分の感情と他者の感情を予測して回答。

結果。まずは妥当なところで、B判定のほうがD判定よりポジティブ。予測者・経験者の役割の差も有意で、予測者の自己感情予測より、経験者の自己感情のほうがポジティブ。つまりは持続性バイアスが確認できる。また、持続性バイアスはD判定のほうが大きかった。つまりはよりネガティブな出来事のほうが持続性バイアスは大きい。仮説2に関しても分析してるけど略。とりあえず仮説は支持されてましたよ。

要するにネガティブな経験で生じるネガティブな感情に対して、実際よりも大きなマイナスで予測してしまう「持続性バイアス」が存在するということ。プロスペクト理論とあわせてやったら面白そう。

2014年9月16日火曜日

表情と言語的情報が他者の信頼性判断に及ぼす影響

夏休みのゼミで学生が持ってきた、のだが、何を発表しようとしているのかまったくわからなかったので自分で読む。

大薗博記, 森本裕子, 中嶋智史, 小宮あすか, 渡部幹, & 吉川左紀子. (2010). 表情と言語的情報が他者の信頼性判断に及ぼす影響. 社会心理学研究, 26(1), 65–72.

信頼ゲームをする際に相手を信頼する基準として表情と言語情報のどちらをどの程度シグナルとして利用するのだろうか。

Scharlemann et.al.(2001)の研究では真顔と笑顔の写真を見せてそれぞれに提供額を決めさせると笑顔の方が提供している。笑顔表出には文化差があり、かつ性差もあるだろう(なんとメタ分析がある)。更には言語情報がどのような効果を持つのかも検討する必要がある。言語情報は簡単に偽装できるため、表情よりリライアビリティは低なるだろう。また、同時に提示された時には、信頼が強化されるのか、欺くための過剰な情報とみなされるのかわからない。仮説を立てるのではなく探索的に検討する。

表情の情報として男女の写真、言語情報としては写真の横に「カンニング可能な状態でカンニングするか」「友人に借りたものに小さな傷をつけたら正直に言うか」に対する回答を「高い」「やや高い」「中程度」になるように付けておく。

結果。笑顔のほうが真顔より信頼されるという結果は女性においてのみさいげんされた一方、言語情報の主効果は有意だった。などなど。ざっくりした結果をまとめると、表情より言語情報のほうが効果量が大きい。言語情報が高いという条件においてのみ「真顔」のほうが提供額が大きくなる。

表情の効果に関しては先行研究とは一致していない(先行研究では性差はでてない)。これは文化差などいろいろ検討する必要がある。

一方、言語情報に関しては偽ることが容易なために効果が小さいと予想してたけど、実は大きかった。嘘は事後的により大きな罰を受けることがわかっている。Brandts&Carness(Management Sci.,2001),Ohtsubo et.al.(Evolution and human behavior,in press)では、嘘をついて裏切るのと、ふつうに裏切るのでは嘘をついたほうがパニッシュ大きいことが示されている(2013年の社会心理学会でも嘘をつける時に裏切ったプレイヤーがALLDより信頼されないっていう実験があったような)。

今回は事後的な罰はないけれど、日常的にこのようなシグナルが有効であるなら、それが判断の手掛かりになった可能性も考えられる。

ふーむ、2次のジレンマが実システムで解決されてる仕組は予想のエラーとシステム1のデフォルト戦略、でモデル化できるのかなぁ。

2014年9月13日土曜日

原発依存の是非をめぐる世論の動向

原発問題を題材とした沈黙の螺旋の論文が刊行されました。

Twitterにおける意見の多数派認知とパーソナルネットワークの同質性が発言に与える影響:原子力発電を争点としたTwitter上での沈黙の螺旋理論の検証

ものすごくお世話になった宮田先生との共同研究。まだまだ教わりたいことは山積みだった。これから良い研究をすることで恩返しするしかない。

原発と沈黙の螺旋ということで研究対象がまさに一致してるので読む。

今井亮佑. (2013). 原発依存の是非をめぐる世論の動向. In 原発政策を考える3つの視点-震災復興の政治経済学を求めて(3) (pp. 65-98). 早稲田大学出版部.

原発問題に関する沈黙の螺旋が調査方法の違いによって生じるかどうかを検証する。発言意図などを取るのではなく、ただシンプルに世論調査の回答自体にも沈黙の螺旋が生じるのではないかという発想。というのも、世論調査では「調査員が回答を入力する(CAPI)」と「自分で回答を入力する(CASI)」がある。CAPIでは回答そのものが公的な発言(にちかいもの)として捉えられる可能性があるので、社会的望ましさバイアスがかかるだろう。すると、それにひきずられて回答がずれるはず。つまりは、孤立への恐怖にかわって、社会的望ましさバイアスが沈黙の螺旋を引き起こす可能性がある。

そこで、原発反対が多数派という世論調査結果を示した群、原発維持が多数派という結果を示した群、コントロール群の3つでCASI/CAPIの世論調査をおこなう。CASI(自分で回答)では3群の間に差はないけれど、CAPIでは原発維持が多数派という結果を示した群において、原発維持という回答が有意に高い。また、高学歴ほど世論の動向を気にするという先行研究があるが、その通りに高学歴ほど現状維持が多数派と知らされたときに、現状維持を支持する率は高くなっている。

なるほど。調査員へ回答を伝えることは公的発言という捉えられ方なのか回答の匿名性が減少するのかどっちだろう。自分たちのデータでも匿名性を聞いておけばよかった。ヘタこいたー。それにしても、まだ分析してないデータも残ってるので早くやらないと。

2014年9月11日木曜日

社会的ジレンマにおける協力促進要因としての規範の過大視

2次のフリーライダー問題は実はそんなに存在しないんだということを実験で示す。メタ規範をおずおずと後ろ手に隠しながら読む。

小野田竜一, 松本良恵, & 神信人. (2009). 社会的ジレンマにおける協力促進要因としての規範の過大視. Center for Experimental Research in Social Science Working Paper Series, (92).

社会的ジレンマ状況にサンクションを入れるとうまくいくという話はあるけど、2次のフリーライダー問題があるから理論的にはサンクションでもうまくいかないはずだ。しかし現実には1次のサンクションがあればうまく機能していることが多いじゃないか。なぜだ?その謎を検証する。

想定するロジックは次の通り。公共財ゲームで協調する人には「サンクションがあってもなくても強調する(属性的協力)」と「サンクションがあるなら協調する(状況協力)」の2タイプがある。属性協力者は信念をもって協力しているのだから罰も行使するだろう。しかし状況協力者は罰を行使しないはずだ(なぜなら彼らは可能ならフリーライドしたいひとだから)。しかし状況的協力者の協調行動も属性的協力の協調行動も、行動としては協調なんだから外部的には区別できない。ということは、状況協力者にとっては罰してくる可能性を高く見積もってしまうのではないか。これが螺旋的にきいて協力が維持されるのではないか?

H1:状況協力者は実際の罰行使額よりもたかく罰行使額を見積もる
H2:状況協力者の予想する額は属性協力者に限った時の罰行使額に近い

実験します。授業中に報酬を払ってPGGをやる。サンクションなしのPGGとサンクションありのPGGをやって、それぞれC/Dとサンクションするかどうかを聞く。

結果、見事にH1,H2ともに支持されました。また、最後に「サンクションをする/される両方」「されるだけ」「するだけ」という立場に割り振ってみたところ「するだけ」の人たちが裏切りにスイッチする率が高い。これは内発的動機付け(サンクションがあると規範が取引に変わってしまう)で説明できるのではないか。

面白かった。確かに2次のサンクションは理論的には簡単に書けるけど現実でいうと(メタ規範をやってる身としてはつらいが)あまり見かけない。その理由が、サンクションの見積もりを誤るために予言の自己成就的に協調が成立するというのは美しいストーリーだ。

2014年9月8日月曜日

Social influence promotes cooperation in the public goods game

今年のESSAはまあまあ面白かった。そして英語論文がないとまったくもって話しにならないことを改めて実感。いやー。

Physicaが案外自由なんじゃないかと思って協調系の論文も読む。

Wu, T., Fu, F., Dou, P., & Wang, L. (2014). Social influence promotes cooperation in the public goods game. Physica A, 413, 86-93. doi:10.1016/j.physa.2014.06.040

公共財ゲームで個人の影響力を考える。モチベーションとしては、従来の公共財ゲームでは戦略のコピー相手はランダムに選ばれるけど、実際の社会では個々の影響力は異なるはずだ。ラティスでノイマン近傍でプレイする公共財ゲームを使う。

個人の影響力をθi(t)として、iがjをコピー相手として選ぶ確率Ai_j=θj(t)/Σθk(t)とする。
そんで選ばれた相手jの戦略に変化する確率がW=1/(1+exp[(Pi-Pj)/k])。kが淘汰圧。θj(t+1)=θj(t)+αで選ばれた相手の影響力は増加する。
α=0なら従来のモデルと同じだ。

これはこれで進化の方法だけどGAだったり模倣だったりとの本質的な差はどこなんだろう。モヤモヤ。自分の研究もきっとこういうモヤモヤを振りまいているんだろう。気を付けよう。振りまくほど読まれてないという可能性は無視。

正規化のためにη = r/G(rは公共財の増幅率、Gはプレイヤー数(ノイマン近傍なら5)を導入する。良く知られているように(知らんかったが)空間公共財ゲームではη>0.76で協調が生き残る(A. Szolnoki, M. Perc, G. Szabo, Phys. Rev. E 80 (2009) 056109.)。へえ。これも読まなくては。

横軸η、縦軸協調率にして、いくつかのαでグラフを書くとαが大きいほうがα=0より協調が促進されている。

で、影響力の効果を見るために、θを0.2刻みで区切ってC/Dの存在比を見てみる。αが大きい時を見てみるとθが大きいプレイヤーはCの比率が他に比べて高い。

αとηの平面で協調率のヒートマップを書いてみると、C=0になるところとC=1になるところに2つの閾値が見える。また、αを変えて進化のスピードを見ると、最終的な協調率と各αにおける協調の上限に達するまでの時間にはトレードオフがある。

最後にBAとSWネットワークでも検証する。やはりαが大きいほうが(すごく微妙なんだけど。。。)協調の進化が速い。BAモデルではかなり早くてη=0.5あたりで立ち上がっている。ちなみに二次元ラティスでは0.7-0.8くらい。しかしSWでは0.8ではまったく協調が進化してない。

というわけでSocial influenceを導入するのは協調の進化に有効です、と。すいません、メカニズムに関してノータッチなんですけど。。自由ばんざい。

2014年9月6日土曜日

Intracultural diversity in a model of social dynamics

見事に1か月の夏休み。ダウンロードして満足どころかチェックすらしてない日々。いかんいかん。

ESSA2014で自分たちの発表と似たことやっている人からコメントもらった。ついでに論文も送ってもらったので読む。

Parravano, A., Rivera-Ramirez, H., & Cosenza, M. G. (2007). Intracultural diversity in a model of social dynamics. Physica A, 379, 241?249. doi:10.1016/j.physa.2006.12.032

Axelrodのモデルにちょい足し。

Axelrodの発展はいろいろやられてる。統計物理系では、文化の多様性の非平衡相転移がおこる(ベクトルの長さと深さによって)ことが示されてきてる。あとはノイズの影響とかマスメディアの影響とか。トポロジーもやられている。でもこれまでの研究群はAxelrodモデルに忠実だから、かならずホモジニアスな文化が1つないしはいくつか残るという結果になる。ということで我々は、相互作用に制約を設ける。というのも個人は、隣人との間で少しは違うアイデンティティを持とうとする傾向があるからだ。

こ、この1行でモデルの妥当性というか意味を説明しちゃっていいのか、Physicaは。なるほどねぇ。ここを狙おう。このままさっくりとモデルとシミュレーションに入る。

特徴ベクトルの長さF,深さqとして、元のモデルではビットの一致率ω(i,j)/Fで相互作用するかどうかが決まるけど、Fdという相互作用の上限を設定する。0 < ω(i,j)/F < F - Fd この条件を満たした時だけ相互作用。Fd=0ならアクセルロッド、Fd=Fなら相互作用は全く生じない。

シミュレーションをやった。N=400,F=11,q=10,Fd=1。結果、当然に見えるんだけど1ビットずつずれた文化群が残存する。ですよねー。

ここから統計物理的な特徴をみていく。まず、qを増やして最大文化のサイズの推移をみると、Fd=0では1からスタートしてあるところで急激に減少。Fd=1では0.1からスタート、Fd=2なら0.01、Fd=3なら0.002あたりからスタートして、やはり減少する。その他、Fdを変化させて、最終段階のω(i,j)の分布を見たり。

結論。モデルの特徴をざっと説明してる。このモデルの良さは、文化的なグラデーションを表現するのに使えるだろう(方言とか料理の習慣とか)。

このモデルで本当に文化のグラデーションが説明できたかとか、その辺の検証は一切なくて、あとは観察指標(最大文化サイズ、ランクごとのサイズの分布とか)が何なのかも特に説明はない。Physicaはこういうのでも通るのかぁ。いまやってるやつはPhysica方面にいけるようにまとめよう。そうすると統計物理ぽい処理が必要なのかな。